昔むかし、河合という名の三人の兄弟は実家から独立して、それぞれの趣味でもって一人暮らしの家を建てました。オーガニックと気軽さにこだわる長男はわらの家を、草原に佇むログハウスでの暮らしに憧れていた次男は木の家を、落ち着いて眠れるだけの強度とアンティークの香りを追究する三男はレンガの家を建てました。
 そうして3人は、それぞれの生活を守りながら時には助け合い、お互いを尊重して平和に暮らしていたのです。

 ところがある日、そんな彼ら兄弟たちにひとつの事件が起こりました。青天の霹靂でした。
 わらの家に暮らす長男が、ひとりでこっそりと狼を飼っていたのです。このような事実が発覚したため兄弟仲は荒れに荒れました。



「心配をかけないようにと思っただけです。急なことだったので」
「しかしこの男、本来は僕たち三人の家をすべてまわるつもりだったのでしょう?」
「兄さんのところで引き止めてしまったので進めなくなったわけですね。彼は三人の共同財産ではないのですか」
「それはあくまでも予定の上での話です。見ての通り、彼はこのわらの家を気に入って居着いてしまった」
「服をとられたからでしょう」
「ふんどし一丁の格好の上に、首輪までつけられてしまったからでしょう」
「なるほど、皮の首輪に……鎖ではなく縄ですか。兄さんの趣味は相変わらずですね? しかし強度が足りていないのでは」
「彼は非力ですから問題ありません」
「たしかに腕力のなさそうなおっさんですね」
「とにかく、今後の彼は三人の共同財産ということで。いいですね? 兄さんたち」
「……末っ子のくせにしっかりしている」
「小屋でも作ってやりますか。木の色は何がいいだろうか……」
「自然のままにしておきなさい。それが似合う男だから」
「ずいぶんと余裕を見せてきますね……兄さん」
「なぜ逆側の方向にある、僕の家の方に先に来なかったんですか」


「…………帰してよう……」
 着物をすべて奪われてしまい、それでも辛うじてふんどしだけは残してもらえたものの、革製の首輪と縄に拘束され、屈辱的な格好のままで一日を過ごし、夜になると玩具のように弄ばれる。などという生活を強要されてきた狼は、そっくりな次男も三男もどうやら自分の救世主にはなってくれそうにないらしいと理解してしまって、しくしくと力なく泣き出しました。

 彼はあわれな狼です。三兄弟の建てた家などあっさりと吹き飛ばしてしまう予定でやってきたのに、第一号のわらの家を相手にさっそくつまずいてしまったのです。それどころか反撃を喰らう羽目になり、一発で動きを封じ込められ、そのまま逃してもらえず、結果として長男の(できうる限りマイルドに表現すれば)ペットに成り果ててしまいました。
 毎日の着替えはふんどしのみで、このふんどしはオーガニックコットン製品でした。その点はわらの家をこよなく愛する長男の趣味のようでした。
 入浴も毎日させてもらっていましたが、長男の言う通りの順番と方法によって洗わなければなりませんでしたし、時には長男に洗うことを任せなければなりませんでした。
 もしかすれば次男と三男にも同じような趣味があるかも知れません。未来を染め上げる果てしない不安に、狼の涙はとどまることを知りませんでした。


 ついにはシーツ(オーガニックコットン)に四つん這いになり、明らかにしゃくり上げ始めてしまった無力な狼。
 そのような姿を三兄弟たちはじっくりと眺めます。口論はいつの間にやら収束していました。一週間ごとに代わりばんこ、ということで無難に決着しました。
「なるほど……悪くない」
「なかなかやりますね、兄さん」
「残念ながら、これは元からです。しかし、つまりは充分な素質を持っているのだということ」
 彼らは揃って明らかにそそられていました。



 こうして三人の河合は、あわれなる松尾を三人の共有財産とすることに決めました。
 何事もなく平和だった頃と比べて、生活は少しばかり刺激的なものになりました。彼らは時にふたりで楽しみました。しかし、場合によっては三人で、あるいは四人で楽しむこともありました。
 体力の足りていない松尾がばててしまうと、三人はなんだかんだと文句を言いながら面倒をみてやりました。
 服を与えてやって、つないだ手を絶対に離さないという条件付きではありましたが(それは鎖や縄の代わりとなるものでした)、散歩や買い物に連れて行ってやることもありました。
 松尾は割と前向きで、まあまあ単純でもありました。やさしく扱われるとすぐさま調子に乗って甘えてくるのでした。



 主人公である三人にとって、この物語はめでたしめでたし。三人のことを本当に心から気に入ってしまえば、狼にとってもめでたしめでたし。
 もっとも実際のところ、本当にめでたし、めでたしということになるのかどうかは決して定かではありません。
 しかし彼らの生活はこれからも続いていくことでしょう。
 少なくとも三人の河合とそれぞれの家は今でも健在であって、あわれなる松尾も当分は、もしかすると永遠に、そのうちのどこかで暮らしているはずです。













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