(曽芭)




 風に揺れ 花は静かに枯れている


 応えない どうして枯れてしまったか
 答えない どうして枯れてしまうのか
 こたえない 花は言葉を喋らない

 かつてには どんな姿をしていたか
 今日でなく 昨日であるなら 見られたか



「咲いても枯れても、花は花でしょう。そこに在る限りは」
「じゃあ、もっと強い風がふいて吹っ飛ばされちゃったら?」
「そのときは吹っ飛ばされた花ですね。よく考えてみてください、芭蕉さんのその縫いぐるみだって……どんなに裂けようが綿でしょう」
「マーフィーくんだよ! マーフィーくんの命を粗末にすんな!」
「綿は無機物ですけど」


 縫いぐるみ 傷のつけども枯れはせず
 視界には 枯れてしまった花が在る

「枯れない花はありません」

 またいつか ここに結ばれる日もあるか
 翌年に この地に育つ芽があるか

「来年のことなど。来てみなければ解りません」


 それならば。翌年、ここに、来ればいい。





「芭蕉さん、いつまでそこにしゃがみこんでいるつもりですか。あまり暢気でいるようだと、この旅ですら終わりませんよ」
「たいしたことないだろ! このくらい……」


 今ここで 花は静かに枯れている
 年明けて 静かにどうしているものか


「……ねぇ曽良くん。いつかはここに、また来よう」





 今ここで、花は静かに枯れている。

 風に揺れ、揺らされ華の、無常なり。












(曽芭 ※ 痛々しい表現を含みます




 その身体を引っ掻いて、にじみ出てきた血液を爪の先に染み込ませる。黒ずんだ紅色に硬い場所を濡らされる。眺め、確かめ、ああこれは彼の内側にあったものだと感じることによって、ようやく静かに満たされる。
 何とも呼べようはずがない。


「そうしたわけで芭蕉さん、これは愛ではありません」
「そうだったのか」
 すると引っ掻かれて傷ついた男は、痕の消えない首筋を押さえながらに呟いた。

「私は君のこれを感じて、まったく痛すぎる愛だなあと思ってたのに」


 ああ、おかしな男だ。馬鹿な男だ。都合のいい男だ。すぐ、調子に乗ろうとする男だ。
 何とも呼べようはずがない。そうであるというのに彼は、このような感情をなんとでも呼ぶ。


 誰よりかも苛立たしくそして、いとしいおろか者。












(曽芭 ※ 痛々しい表現を含みます




 ここにただひとつの刃がある。
 他の何によってもかえることはできない。ただひとつの刃がある。

 しかしその刃をひるがえす際には、よくよく心にとどめておかなければならない。
 誰かを切り裂き貫いたとき、己をも傷つけうるのだということ。そして、切り裂き貫かれた誰かが、必ずしもその痛覚を抱き続けてくれるわけではないという事実。


 だから、よくよく心にとどめておかなければならない。
 たったひとりの標的に、曽良はその刃でもって傷口を作り出すことができる。
 けれども彼は、すぐにそのことを忘れてしまう。
 忘れてしまうのだから。


 

 どうせ痛みはここにだけしか残らないのだということも。












(曽芭曽)




 彼がくれるものの中には、

 甘ったるいなにかが、
 塩からいなにかが、
 喜ばしいなにかが、
 痛々しいなにかが、
 優しいなにかが、
 哀しいなにかが、
 くすぐったい、なにかが、

 この身のどこか、或いはすべてを刺激しうる何かが、
 何もかも詰め込まれている。



 だから、欲しくてたまらない。



 だから、口では欲しいと言えない。












(曽芭)




「曽良くん。私、おかしくなりそう」
「ギャグマンガでも読みましたか」
「そっちの『おかしい』じゃないよ! 私、君のことばっかり考えてるから……いい加減におかしくなりそう」
「今更じゃないんですか」
「違う! これから!」
「でも、今更じゃないですか」


 知っている。なぜならば僕は間違いなく、元よりの奇人相手に恋をしたのだから。


「今更じゃないですか。そんなのは」












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