(曽芭)




「そうしたわけで芭蕉さん。抹茶のモンブランという名のケーキには、マロンクリームが含まれているようなのですが……」
「……なんていう当たり前っぽいことをイガグリ片手に言わんといてよ! 怖いよ!」


「芭蕉さんになら……いけるだろうと思いました」
「なっナニが……いやいや! 何であろうといけてたまるかーッ」
「僕としては芭蕉さんの隠し持つポテンシャルに期待してみたいという気持ちがあるんです」
「二度としないでくれ、そんなもん呑み込んだら死ぬから! っていうか曽良くん、マロン『クリーム』なんだからイガはないだろイガは……」

「それもそうですね」
「げぇッすかさず懐からクリームを! しかも絞り袋で……!」
「こんなこともあろうかと思ってパンパンに詰めておきました」
「元禄の世界にクリームの絞り袋とか、あり得なくない?」
「それを言うならパンまつりも存在していないと思います」
「そもそもモンブランだってあり得ないだろ! あっ、でもイガグリじゃなくてマロンクリームだったら呑み込んでもいいかも……それ、私にくれるの?」
「構いませんよ。そのためにギュウギュウに詰めてきたんですから」
「ヒャッホウ、マジかよ! 曽良くんってば奇跡的に太っ腹!」
「それでは芭蕉さん、立派な抹茶のモンブランとやらになるためにも遠慮なく……

 着物を脱いで尻をこちらへ向けてください」


「…………ひへ?」
「褌はそのままでお願いします。……漏れたら困るので、しっかりと締め直して抑えておくように」
「ヒ、ヒトのふんどしをそんなオムツみたいに……っじゃないよ! なんでだよ! 普通に食べて普通に呑み込めばいいものを、どうしてケツの話になるんだよ!?」
「芭蕉さん、よく考えてみてください。シュークリームのクリームだって言うなれば尻の方から絞り入れるでしょう」
「モンブランだろ、モンブラン!」
「どうでもいいんじゃないですか、そんなことは。さっさと脱ぎなさい」
「ギャーッ絞り袋の先端をするどく構えてきた! ぎ、ギザギザしててひたすらに痛そうッ……」
「僕としては芭蕉さんの隠し持つポテンシャルに期待しきっているもので」
「だからもう宇宙一されたくないよ、そんな期待! ……ああーっ尻を、シリをムリヤリまくらないでェ!」



 こうして今ここに松尾芭蕉という名の男の宇宙が崩壊、したのかどうか定かではない。そこにおいての真実を知るものはマロンクリームでガチガチに膨れた絞り袋と、その持ち主たる河合曽良のみであると言える。
 しかし誰もが(絞り袋も含めて)何をも語ろうとはしなかったため、この後に起こった出来事が松尾芭蕉の句作へと影響をもたらしたか否かについては、その判断を後世の歴史家に委ねられることとなった。












(曽芭)




 あなたのそれを欲しません。



「っつゥ」
「なんですか」
「木で擦った……! ねえ見てくれよこれ、痛いったら」
「ささくれですか」
「まいったよもう……あ、血ィ出てきた! ちょっと曽良くん、なんか布もってない?」
「放っておけば乾きますよ。しかし、芭蕉さんの血液は不味そうですね」
「うへぇ! 蚊や妖怪じゃあるまいしヘンなこと言わんといてッ……あ、あ、どっちかっていったら蚊の方がいい。蚊の方が怖くないから」
「でも血が恋しいのは当たり前じゃないですか」
「なんで?」
「僕の体の中にだって流れているんですから」

「ああっ、そうかぁ…………あれ? いや、そうか。そういえばそうだった」
「失礼な男だ……」
「おわっ睨まんでよォ! ほんのお茶目だよ、おちゃめっ」
「しかし仮に僕が蚊か何かだったとしても、芭蕉さんの血だけは吸わないでしょうがね」
「へーんだ。不味そうで悪かったよ」
「……ええ。吸わないでしょうね、きっと」




 過ぎて求めて腹を満たして、いっぱいになって溺れてしまったら困るでしょう。
 あなたの、それこそあやかし染みた様がうつったって困るでしょう。

 だから決して欲しません。
 あなたのそれを、欲しません。












(曽芭)




「そ、曽良くんってさぁ……どーして立ってするのが好きなの」
「嫌いなんですか、芭蕉さん」
「好きなわきゃないだろッ!」
「ウソつけ」
「なんでウソだよ……!」
「僕が立ってするのを好むのに、大体ふたつの理由があるのですが」
「は? 答えになってな……」
「最後まで聞け!」
「おぅふ!!」
「そのひとつめと矛盾していますよ。芭蕉さん、あなたは」
「な、なにが矛盾ーっ……あああいたたた、頬骨がゴリっていったよ今ッ……」
「立ったままされると、よく締まるんです」

「…………」
「…………」

「……うっウッウソつけぇ、そ、そんなことがあるわけ……いやそもそも、そんなん解るわけないだろ! からかうなよッ」
「解るものです。芭蕉さんはされてばかりだから解らないんでしょう」
「君がしてくるばっかりだからだろ!」
「芭蕉さんがされたがるから」
「ああああっ、もういい……!! この話はおしまっ」
「ところで、もう片方の理由についてですが……」
「あ、お、お終いだってばァ!」
「立ったままだと、僕のほかには縋れなくなるでしょう。あれが好い」
「お……おひらきっ……」
「……で。お開きにして、それから何を始めたいんですか?」


「き、期待なんかしとらんわい!」
「してるんじゃないですか」
「しとらんわーい!」
「だいたい芭蕉さんは……」
「しとらんわーい!!」
「最後まで聞け!」
「おんッ!」












(曽芭)




「曽良くんなんかコオロギのみにモテモテになればいいのに!」
「嫌です。しかし……芭蕉さんのみにモテモテになるとしたら。まあ、考えてやってもいいでしょう」
「えっ」
「ついでに芭蕉さんも、僕のみにモテモテになればいいのに」
「曽良くん……!」


 やだなあ、曽良くんってば……考えてくれなくたって、もうなってるじゃないか……!
 芭蕉さんこそ……責任とって残りの一生を僕の弟子として過ごしてください
 マジで?



 こうして伊井肺苦好夫さん(驚くべき逸材)が見守る中、ふたりの行脚はゴールインへの道のりとなり、う○た先生の描いた芭蕉さんは乳首をさらすも☆マークによって隠されるのだった……



 師弟 〜やがて伝説へ〜












(半家)




「半蔵! 今日は大切な相手のために、こっそりチョコレートを用意する日なんだってな!」
「はぁ……」
「私には? くれるの? くれんの?」
「ほ、欲しいんですか?」
「……欲しい!」
「わ、わ、解りました……しからばこの服部半蔵、これより雹が降ろうと槍が降ろうと影武者が降ろうと、必ずや家康様のお気に召すような『ちょこれいと』をもってこっそり……!」


「買いに行くのかっ? だったら私も連れてってー」
「……こっそりは!?」












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